narative.

物語。日常。代わり映えのしないもの。

壊れた加湿器。

加湿器が壊れた。いつもつけっぱなしにしていたものだから、きっとそれがいけなかった。LEDは弱々しく仄かに点滅し、上がるべき蒸気は内々に留まってただ小さく水が吹き上がっているだけだ。

処分してしまいたくてリサイクルショップに持って行くと買い取りできないと言われた。タダでも貰ってくれないものかと思ったがそういう訳にもいかないか。それはそうだな。

そのついでに、幾らかお金になるかしらとあれこれ売ってしまった。数千円にしかならない。でも給料日まで、これでガソリン代にでもなれば充分だろう。家のものがどんどんくだらない日銭に代わっていく。バイクの“かかり”がよくない。壊れている最中なのかも。仕事を変えて帰るのはいつも12時過ぎ。背中は痛い。この間は友人が深刻な顔でなにかを言おうとして、結局何も告げずにひとり耐えていた。他の友人は転職するかもと言っていた。妹はアパートを引き払うらしい……

加湿器は壊れた。もしかしたら壊れていないかもしれないと、またコンセントに挿して二三度電源を入れてみる。微かに光るLEDと、出もしない蒸気。

タダでもいいから、これを誰か処分してくれないだろうか。そうすれば、せめて、次に何を買うかを気兼ねせず決められるのに。

ものがどんどん壊れていく。ものがどんどん無くなっていく。ひとがどんどん変わっていく。

維持をすること、ただそれだけが僕らの生活でどんなに難しいことなのだろうか。

変わらないことはよいことなのだと、とても努力が必要なのだと誰か教えてくれていれば、僕はせめて加湿器くらいは壊さずに済んだのかもしれない。